日本の学術論文、「工学系」が著しく減少 韓国、インドにも抜かれ低迷、大丈夫か

日本の人口当り論文数の国際ランキングは、クロアチアやセルビアなどの東欧諸国を下回る37位――そんな衝撃的なレポートが2015年5月に発表されていた。
レポートでは分野ごとの論文数の推移も調査しており、2000年代初めまでは米国に並ぶ1~2位となっていた工学系論文数は中国、韓国、インドに追い抜かれ5位となっている。
一体、何がおきているのか。

現在の二強は中国、米国

今回の論文数の低迷は、国立大学協会による日本の学術論文数に関するレポート「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究」で公表されたもので、鈴鹿医療科学大学学長、国立大学協会政策研究所所長の豊田長康氏によって分析され、「豊田レポート」と呼ばれている。
分析方法は、米大手情報企業トムソン・ロイター社が運営する研究評価ツール「InCites」を利用し、1982年から2012年までの国、地域別論文数を2年おきに集計。人口100万人あたりの論文数に置き換えてグラフ化している。
5月にレポートが公表されて以来、一部のネットメディアなどでは日本の学術研究力の低下を表すデータとして取り上げられていたが、9月には豊田氏が「この事実はやはり日本国民の皆さんに知っておいていただかいといけないと思い」、自らのブログで再び取り上げ、大きな話題となっている。
豊田氏が著しく低迷していると指摘するのが「物質科学」「エンジニアリング」「コンピュータ科学」などに代表される「工学系論文」。例えば物質科学は2002年ごろまで米国とともに世界1~2位を独占していたが、現在では中国、韓国、インドに追い抜かれ5位となっている。また、論文の注目度の指標となる論文の被引用数の多さを示す「相対インパクト」でも、世界平均の「1」を下回り、韓国よりも低い値となっているという。
2002年以降低迷している工学系論文数(「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究」より)
他のふたつでも韓国や欧米諸国に追い抜かれ、エンジニアリングが8位、コンピュータ科学が11位となっている。
その他の「薬学」「化学」「物理学」「農学」「微生物学」「数学」などの理系分野でも中国と米国がトップ2を占めており、日本もトップ10圏内には位置しているものの、振るわない印象を受ける。

原因はどこにある?

大学院でエンジニアリングを専攻していたという30代の男性は、
「自分自身は(論文の)学外発表をしていましたが、所属している研究室によっては、まったくそういった機会が得られない、という話は聞いていました」
と語る。
大学関係者や研究者の間では「研究力が低迷、日本の大学がこのままではダメになる」などと、波紋を広げているが、なぜ論文数が減少しているのか。
豊田氏は大学院を含め大学への公的研究資金の投入額と、論文の書き手となる大学院生や博士研究員(ポストドクター)、大学教官、研究機関の実動研究者数が少ないのが原因と指摘する。
ネット上では「景気の低迷で企業の余力が喪失し、企業の研究者の論文発表機会がなくなったのが原因ではないか」と、経済面からの問題を指摘する声もある。
また、「論文の著者の国籍が複数国にまたがる場合、国ごとの論文数とカウントされているのなら、第一著者(主な著者)で統計を取った方がよいのではないか」「人口当たりの論文数では研究力が低迷しているかはわからない」といった意見も見られた。
理系論文の減少は、中期的に考えると、日本社会にボディーブローのように影響を与えてくると思われるだけに、理系でなくても気になるところだ。

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