新しい「学び」が流行っている いま、「エドテック」が熱い!
新しい「学び」が流行り始めている。キーワードは「エドテック(EdTech)」。米国ではすでに定着、日本でも猛スピードで広まりつつある。
エドテックとは何か、これまでの「学び」のスタイルと、何が違うのか。なぜいま注目されているのか。
教育にイノベーションを
エドテックとは、エデュケーションとテクニックを組み合わせた造語で、ひとことで表現すると「IT技術を活用した教育サービス」だ。
デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授は、エドテックを「デジタルテクノロジーを活用し、教育という仕組み、産業(ビジネスモデル)、学習スタイル、コンテンツなどにおいてイノベーションを起こすムーブメント」と定義している。(Knowledge COMMONSでの講演による)
もう少し補足すると、背景には、スマートフォンやタブレットPCなどのデバイスとSNSの普及で、新しいタイプのオンライン学習環境が整ってきたことがある。そのことにより企業の社内研修などが中心だったeラーニングのほかにも、個人がネットで好きなように学べる、さまざまな革新的教育サービスが登場することになった。
米国ではすでに10年以上前から、こうした動きがあったが、ブレイクしたのは2012年に始まったMOOCs(ムークス)がきっかけだ。Massive Open Online Courses(大規模公開オンライン講座)の略で、米国をはじめ世界の有名大学の講義を、インターネット環境さえあれば誰もが無料で受講できることで話題になった。代表的なMOOCsのひとつ、Coursera(コーセラ)の参加大学リストには、スタンフォード大学やイエール大学、インド工科大学、北京大学など世界の名門大学が名を連ねる。
ほかにも特色のあるサービスが次々と生まれている。初等教育から大学レベルまで多岐にわたる講義を動画で無料配信しているKhan Academy(カーンアカデミー)やプログラミング言語の基本を学べるCodecademy(コードアカデミー)などは、無料で高水準の教育が受けられることで有名だ。英語さえわかれば世界の誰でもアクセスして学べるので、いまや数千万人のユーザを抱えるサービスもあるという。
また、Udemy(ユーデミー)やLynda.com(リンダドットコム)に代表されるオンライン学習プラットフォームは、誰でも先生になり、自分の講座をインターネット上に公開できる。教えたい人と学びたい人をマッチングするサービスで、いずれも今年、日本版がスタートしている。
「学ぶ側」が主導権を握る時代へ
大学などの無料サービスの場合、大学側は全世界の優秀な学生や研究者をリサーチできる利点がある。また、そうした人材を企業などに紹介することで収入を得ることも可能だ。Udemyなどは、講師と受講者のマッチングで仲介料が入る仕組みだ。
米GSVアドバイザー社の調査によると、eラーニングの世界市場は2015年のおよそ1665億ドルから2017年には2555億ドル規模にまで成長すると予測されている。
これほどまでに期待されているエドテックの魅力は、どこにあるのだろうか。そのヒントになる興味深いエピソードがある。
カーンアカデミーの創設者、サルマン・カーン氏は、いとこに個人的に数学を教えていた。カーン氏がTED Conferenceで講演したところによると、あるとき、カーン氏は自習用のビデオを作成し、YouTubeにアップした。すると、いとこからは「自分のペースで勉強できるから、リアルタイムで教えてもらうよりいい」と好評。さらに驚いたことには、世界中の子どもたちから「わかりやすい」と反響があった。
職業教師でもないカーン氏が(当時はヘッジファンドアナリストだった)、世界中の子どもたちの先生になり得たのは、もちろん作った自習用ビデオの出来がよかったからだが、分からないことをネットで調べるのが当たり前な時代になっていること、そして、誰でも無料で学習できるようにしたことが大きい。
カーン氏のビデオは学校の授業でも活用され始めた。ある学校では、自宅でビデオを見て予習し、学校で宿題を解き、わからないことを教師やわかる生徒に教わるという方法をとった。これは従来の「教室で授業を受け、自宅で宿題をして復習する」というやり方を「反転」させたフリップドラーニング(反転学習)と呼ばれる学習スタイルだ。
生徒はマイペースで講義を視聴でき、教師は講義をする時間を個々の生徒の指導にあてられる。生徒同士教え合うことで、互いの理解を深めることもできる。カーン氏は、「テクノロジーが教室をより人間的なものに変えた」と言う。
このようにネットを活用したエドテックは様々な新しい学習方式を生み出している。これまでの「教師→生徒」という一方通行の授業から、学ぶ側が好みの講義を自分で選んで学べる――つまり「学ぶ側」に主導権が移ったことが画期的だ。もう「生徒」は「受け身」の存在ではない! だからこそ、ネットを通して教育の格差をなくし、学びの可能性を広げるエドテックに、世界中から熱い視線が注がれている。
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